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◆ものづくり白書を振り返る。

◆ものづくり白書は毎年5月の終わりごろから6月のはじめごろにかけて発行されます

10年ほど前、技術士になろうと決めたときにやったことの一つに「ものづくり白書」を読むことがありました。技術士試験は社会課題からの出題もあるので世の中の動き、トレンドを把握するために白書は有効でした。経産省のHPから過去の分も含めて閲覧可能です。

 

ものづくり白書

 

◆人手不足や人材育成はずっとトレンド

2011年以降で白書の目次の中から人材に関する章をピックアップしていきます。

 

2011年 第3章 わが国ものづくり産業の将来を担う人材の育成

この年は特に若年人材、それも若年技能系社員について言及されています。

 

他にはやはり東日本大震災に関する内容、そこからサプライチェーン途絶リスクの高まりなどについて言及されています。

 

2012年 第3章 第1節 ものづくり現場における中核人材の確保・育成状況と課題

前年とはがらりと変わり、中核人材の役割について言及されています。

 

他には資源・環境制約が企業に与える影響、レアアース・レアメタル等の希少資源に係る課題などについて書かれています。レアアース・レアメタルは前年に中国が輸出規制を行った影響もあるようです。

 

2013年 第2章 全員参加型社会に向けたものづくり人材の育成

女性技能者、高齢技能者、非正規雇用の技能者それぞれの活用状況や課題について書かれています。

この年はじめて人口減少社会の到来に言及しています。

 

また、他のトピックスとして気になるのが第1章の第1節において、自動車産業の波及効果や、底堅い「自動車」と伸び悩む「電気機械」など産業ごとの言及がありました。

これ以降の白書には見られないものです。

この頃の電気業界の凋落はいちじるしく、この2年後の2015年に東芝の不適切会計があり家電や半導体メモリー事業を売却する事態になりました。また、2016年にはシャープが鴻海精密工業の傘下となりました。

 

さらに注目しておきたいのが、第1章の第3節。[世界の”ものづくり“の潮流の変化]としてハードウェアとソフトウェア、システム、デジタル化などについて書かれています。

この10年間ずっと言われ続けていますね。

 

2014年 第2章 成長戦略を支えるものづくり人材の確保と育成

前年までは「若年」「中核」「高齢者」「女性」など特定カテゴリー人材について書かれていましたが、この年以降は基本的に人材をカテゴリー分けせずにものづくり産業の人材育成というように変わりました。前年度に掲げていた[全員参加型社会]というものが根底にあると思います。

 

第1章 第3節でデジタルものづくり(3Dプリンタ)やITの活用について書かれています。翌年にはIoTという単語が出てきます。

 

 

2015年 第2章 良質な雇用を支えるものづくり人材の確保と育成

この年はじめて「IoT」という単語が出ました。第1章 第3節 1.データ社会において変わりつつある製造業 の中ではじめてIoTという単語が出ました。

この後、毎年IoTという単語が目次の中に見られます。

ただし、2020年以降は本文の見出しではなく、コラムの中で企業事例としてIoTの実施例などが出る程度に変わります。2020年以降はIoTに変わってDXという単語が出るようになります。

 

2016年 第2章 ものづくり産業における労働生産性の向上と女性の活躍促進

労働生産性の向上と書かれていますが、実は日本における製造業の労働生産性は2011年以降の統計を見ると、全産業に対して1.2倍~1.3倍と高い水準にあります。2023年度版の第1章 第1節を確認してみてください。

また、この年に[女性の活躍促進]と特定のカテゴリーを書き出しています。これはおそらく2002年以降の統計で全産業に対して製造業の女性就業者の割合がずっと低い水準にある、かつ全産業では緩く右肩上がりに対して製造業は右肩下がりから横ばいが続いていることが背景にあるように思います。

こちらは2023年度版の第2章 第1節を確認してみてください。

 

他のキーワードとしてインダストリー4.0やコトづくりなどのキーワードが出ています。

 

 

2017年 第2章 ものづくり産業における人材の確保と育成に関する課題と対応

中小企業と大企業とでの採用活動の違いや人材の定着率の違いについて書かれています。

 

気になる項目として第1章 第3節 [1技術革新に伴う「顧客価値の実現」の手段の変化:「モノの所有」から「機能の利用」、「体験の提供」へ]とあります。

前年度に出た[ものづくりからコトづくり]という言葉がより進められたように感じます。

この頃勤めていた会社の、主に経営層の人たちがよく「コトづくり」と言っていました。

 

2018年 第2章 ものづくり人材の確保と育成

[IT人材の確保と育成]や[ICT化を実施する場合の人材面での課題]など、デジタル系の人材に注目されています。

 

「働き方改革」の単語が出てきます。(コラムであれば前年度にも出ています。)

第1章第1節では、わが国製造業の主要課題①として人手不足と品質管理が掲げられています。さらに同第2節で人手不足が取り上げられています。

また、Society 5.0の実現についても書かれています。以降、Society 5.0は毎年出てきます。

 

 

2019年 第3章 ものづくり人材の確保と育成

技能と技術の違いに言及したうえで、技能継承の課題などについて書かれています。

技能と技術の違いについて、第3章 第1節 より引用します。

 

~引用ここから~

「技術」は、図面、数式、文章などなんらかの客観的な表現によって記録され伝えられる形式知を主体にするものであり、その人を離れて、伝達・伝播される。それに対して「技能」は、人に内在する、暗黙知を主体とする能力であり、その人を離れては存在しえず、実際の体験等を通じて人から人へと継承される。

~引用おわり~

 

また、第1章 ものづくり白書の変遷のなかでは災害からの教訓として震災を振り返りそこからサプライチェーンがどのように変わってきたかを言及しています

 

 

2020年 第2章 ものづくり人材の確保と育成

デジタル技術の活用にフィーチャーしています。

この年はいわゆるコロナ禍のはじまりです。このため改めてサプライチェーンの寸断リスクについて書かれています。特にグローバルサプライチェーン。

また、この年からデジタルトランスフォーメーション(DX)という単語が出てきます。そして設計力強化戦略として、[品質・コストの8割は設計で決まる]と述べて、設計に関するデジタル化、部門間・企業間のデータ連携やバーチャルエンジニアリングについて書かれています。当然のように人材に関してもデジタル技術の活用にフィーチャーすることになったと思います。

DXという単語が出てきた一方で本文中からはIoTという単語が無くなりました。(コラムにはあります。)

IoTの前にそもそも製造業の現場においてはアナログ的な仕事がまだまだ多く(例えば図面を紙に印刷してFAXで送付など)、まずはデジタル化をやらないとIoTが活用できないという事なのかなと個人的には思っています。

 

また、第3章ものづくりの基盤を支える教育・研究開発ではAI人材育成について書かれています。実はこれより前の年ではAIというとコラムでの事例紹介などに留まっていました。教育・研究開発というテーマの中で挙げられたのはこの年が初めてです。

 

2021年 第2章 ものづくり人材の確保と育成

前年に引き続きコロナ禍です。人材に関してもデジタル技術の活用にフィーチャーされています。

デジタル技術の活用の好事例がいくつか書かれています。事例を出すことでよりデジタル化を進めていこうという狙いがあるように思います。

 

2022年 人材確保・育成

ものづくり人材とデジタル技術の活用について書かれています。

第7章 事業環境の変化としてカーボンニュートラル、人権尊重に向けた取組およびDXに関して国際的な動向から書かれています。

 

 

2023年 人材確保・育成

前年と同じテーマとなっています。

完全失業者数から始まり、均衡失業率、有効求人倍率、就業者数の推移、女性比率の推移、外国人労働者数の推移などが書かれています。

前年度と比べてあまり変わりないなという印象です。

 

2023年版で気になったのは第1章 第3節にある「経済安全保障の確保」。

これは経済安全保障推進法を受けてのものだと思います。

経済安全保障推進法は次の4つの柱があります。

(1)重要物資の安定的な供給の確保

(2)基幹インフラ役務の安定的な提供の確保

(3)先端的な重要技術の開発支援

(4)特許出願の非公開

 

 

人材というキーワードは毎年必ず出てきますので、ここを目次からピックアップする形でものづくり白書を振り返ってみました。