◆はじめに
前回の記事「◆安全率は設計者が決めるもの!」の中で1.計算条件の簡素化による過小評価を想定する。というお話を書きました。
その中で別途としていたCAE(Computer Aided Engineering)の評価について書いていきます。
CAE解析を行っても実際の現象とは必ずズレが発生します。CAEの結果をうのみにせずにこのズレを考慮して評価することが大切です。解析結果で発生応力が160N/mm^2となったとしてもズレが10%程度生じるとすれば、最大176N/mm^2発生する可能性があります。前回のブログに書いたように、このようなズレを漏れなく検討して安全率に反映させます。
◆CAEでの解析
CAEで強度解析の手順を見ていきます。
1.解析要素を決める。
①体積情報を持つソリッド要素での計算
②面積情報を持つシェル要素での計算
③線情報を持つビーム要素での計算。
ソリッド要素とは粘土で作ったモデルをイメージしてください。
シェル要素とは紙を折り紙イメージしてください。
ビーム要素とは針金細工をイメージしてください。
シェル要素は板金加工品など薄板モノの解析で使用します。
ビーム要素はアングル・チャンネル・H型鋼などの形鋼や、パイプの解析で使用します。
ソリッド>シェル>ビームの順で解析の負荷が低くなる、つまり解析にかかる時間が短くなります。とはいえシェルやビームを使うと解析精度が落ちると言う事ではありません。シェルやビームを使ったときのデメリットとしては解析後に内部応力の確認ができなくなることが挙げられます。
CAEで解析精度に影響を及ぼすものとしては
・拘束条件
・荷重条件
・メッシュ精度
などがあります。
2.解析条件を決める。
解析要素を決めたら、次に3つの条件を決めれば解析ができます。
①拘束条件
②荷重条件
③メッシュ精度
例えば図2のように三角ブラケットをボルト2本で壁に固定し、重量物を支持することを考えます。
このとき、拘束条件は正確には図3のようにボルト穴一つ一つで拘束条件を指定することになります。しかしこれは非常に手間であるため、壁との接触面に拘束条件を指示して計算することがあります。
また、荷重条件も正確には重量物の接触面に等分布で荷重がかかるよう指定すべきですが、そのためには荷重を受ける面を新たに作成・指定する必要があります。これもやはり手間のため、集中荷重として指定することがあります。
このように拘束条件や荷重条件は解析者次第で正確にも簡素にもできます。当然、簡素化した方が計算時間は早くなります。
そしてもう一つ、図5に示すようにメッシュ精度次第で解析結果は大きく変わります。これも解析者次第で緻密にも粗くもできます。当然これも細かいほど解析結果は正確ですが、時間がかかります。
以上のように解析要素と条件は時間と精度の兼ね合いで解析者によって決定されるものであり、そこにはたくさんのノウハウがあります。
3.解析精度を決める。
解析を行おうとする人の立場を3つに分けて考えてみます。
①従来から本人あるいは部署でCAE解析をたくさん行っており、解析モデルに対してどのような条件が最適なのか?どの程度実際とずれが生じるのか?ある程度分かっていて、自らCAEを行う場合。
②CAEを行った経験がほとんどなく、これから取り入れようとする場合。
③CAEを行った経験がほとんどなく、業者に依頼する場合。
①の場合は過去の経験からどの程度ズレるのかが分かっているため特に問題ありません。
「◆安全率は設計者が決めるもの!」の中で示しているように「メッシュを粗く計算してあたりをみてみよう」と言う場合は1.2~1.5程度見込む。メッシュを細かく計算して1.1とする。などが経験値から決められます。
あるいは上記のような、ボルト固定を面固定と簡易化するなどモデルを簡素化した場合は○○見込むなど。これらは絶対的な指標ができるものではなくやはり経験値がモノを言う部分になります。
②の場合は、そうはいきません。複雑な構造を解析する前に手計算で結果を確認できるレベルの解析を条件をいろいろと変えながら繰り返して、手計算との誤差を確認していきます。単純支持梁のような簡単なものから初めて、組合せ梁の計算など多少複雑だけど手計算でも確認可能なものに移っていくのがいいと思います。
③の場合は依頼する業者の力量を評価する必要があります。例えば、基準応力(引っ張り強さなど)240N/mm^2に対して解析を依頼した結果が160N/mm^2だった場合、これをどのように判断すればよいでしょうか?その数値をそのまま信用してもよいものでしょうか?CAE解析には必ず現実とのズレがあります。受け取った結果がどの程度のズレを含んでいるのか?分かりません。せっかく依頼してもその結果が評価ができなければ意味がありません。
設計段階でCAEを自分で使ったり同僚から解析依頼をうけていた立場からすると、こういうときは結果が分かっているものやあるいは手計算などで確認できる解析をやってもらいその結果を見てズレを確認すればよいかと思います。
◆まとめ
①解析業務実績が豊富な場合は過去の事例から解析条件毎の結果と実物のズレを確認して安全率を決めます。
②解析業務をこれからやっていく場合、まずは手計算で確認できるところから始めて手計算とのズレを確認してノウハウを蓄積します。
③解析業務を依頼する場合、結果(実力)が分かっている解析を依頼すればズレを数値評価できす。
次のブログは自動化開発のススメです。
前のブログは安全率は設計者が決めるもの!です。
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