強度区分を指定しない普通のボルトの強度が知りたい。
ボルト強度を確認しようと思って検索すると必ず出てくるのが「強度区分」のお話し。
ボルトは世界で最も多く使用されている締結部品の一つですし、様々なシーンに合わせた強度のものを選ぶことの重要性はとてもよくわかります。でも私はいつもこう思っていました。「いや、強度区分の話はええねん。4.8=400と320やな。分かっとる。普通のボルトはいくつやねん!?」
というわけで、ここではボルトの強度を選定するお話しではなく「普通のボルト」で話を進めます。
「普通のボルトってなんやねん?」
強度区分を指定せずに購入したボルトのことです。強度区分を指定したボルトにはその頭に強度区分が刻印されています。
普通のボルトとは強度区分を指定することなく購入し、強度区分が刻印されていないボルトのことです。さらにここでは材質は鋼製、SS400のボルトとします。結論を言うとこれは強度区分4.6になります。
さてここで、全ての強度計算の基本は[F=σ×A](力=応力×面積)です。
ここでボルトの面積は図にある有効断面積を採用します。
では応力は?材料の性質から基準応力を決めて、使い方から安全率を決めて、許容する応力を設計します。
[許容応力=基準応力/安全率]
基準応力と安全率を決めれば定まります。
そして許容応力と有効断面先からボルトが耐えられる力が計算できます。
1.基準応力を決める。
まず基準となる2種類の指標を確認します。
・引張り強さ :これ以上の強さで引っ張ると破断する。
・降伏応力 :これ以上の強さで引っ張ると変形する。
変形してもいいけど壊れては困るという場合は引張強さを基準にします。
変形も困るという場合は降伏応力を基準にします。
変形してもいいという設計を私はやったことが無いので基準はいつも降伏応力を見ています。
参考までに、ステンレスなど材料によっては降伏応力を明確に示さないものもあります。その場合は耐力をみます。
*耐力:試験片に引張荷重をかけたときに、0.2%の伸びを示す荷重
さてここでボルトの引張荷重です。普通ボルトの場合は次の値をみます。
・引張り強さ 400N/mm^2
・降伏応力 240N/mm^2
ちなみにこれは強度区分[4.6]の値になります。強度区分は[①.②]のように二つの数字で表し①の100倍が引張り強さを、そしてその②割が降伏応力を表します。
[4.6]の場合、引張荷重が400 N/mm^2、降伏応力が400×6割=240 N/mm^2となります。
参考ブログ:材料基礎
参考ブログ:材料力学基礎
2.安全率を決める。
ここで重要なこととして安全率の古典的な指標にUNWINの安全率というものがあります。あなたが設計者であるなら、絶対にこの指標を使ってはいけません。この指標は50年以上前のものであり、「私は何も考えずに設計しています」と言っているようなものです。
安全率は、クレーン則のように法律で決まっている場合を除き、材料の使い方から設計者が見積もるものです。見積もる際の視点は4つ。
①計算条件の簡素化による過小評価を想定する。
②荷重のバラつきを想定する。
③荷重を受ける材料のバラつきを想定する。
④機械の中で果たすべき機能を明確にする。
①②③はこちら⇒[梁強度計算例]参照してください。簡単に書くと、分布荷重だけど集中荷重で計算しちゃおう!条件違うから20%くらいは多く見積もろう。重量100kgだけど運転中は10%くらい上下するよね。板厚って10%くらいばらつくよね。しかも大抵は薄く出来上がっているよね。ということです。
*ちなみにボルトサイズ(直径)もやはり10%程度バラつきます。つまり断面積にすると20%近く(19%)ばらつきます。よってサイズのバラつきを考えると安全率は1.2(20%を考慮する)となります。
④についてですが、例えば、そのボルト1本が破断したら数百kgの機械が数十mの高さから落ちてきて非常に危ない!という場合、いくら①②③を想定して計算したとはいえ、そこからさらに大きな安全率を取りたくなるのが人情です。
重量物を吊り上げる際に使われる玉掛道具、シャックルなどが該当します。*玉掛道具はクレーン則で安全荷重が決められています。
逆に、そのボルトが一つ破断しても機械の性能に直ちに影響を及ぼさない場合は、①②③を想定しておけば特に問題ありません。
複数本のボルトで機械を締結しているうちの1本などが該当します。
同じ機械の中でも用途・機能によって安全率は設計者がしっかりと見積もり、使い分けることが大切です。
3.おわりに 安全を確保するものは安全率ではない!
安全を確保するものは基本設計です。建築構造物で風や地震による荷重を考慮しなければならない場合は、地域に即したリスクから風荷重と地震荷重が定められており、強度計算内に組込みます。つまり風や地震の影響による安全を保障するものは安全率ではありません。通常の強度計算過程の定められた範囲内で保証されるものです。これは設計の基本要素です。ただしこの計算値はあくまで設計値であり、実際の製造物はさまざまな要因でバラつきが発生します。このバラつきを考慮したときにしっかりと設計強度がでるように設定するものが安全率になります。
話は変わりますが、私はかつて数百tクラスの機械を解体するために吊りピースを設計したことが何度もありますが、しっかりと安全率を取った設計とはいえ数百tもの機械が吊り上がっている間はずっと胃が痛くなりました。
安全率をやたらめったら高くすると全てコストに跳ね返ってきます。最悪なのは「安全率を高くしたがために機械の重量が重たくなり、そのために別の危険が生じてしまう」などの負のスパイラルに陥ってしまう事です。
機械の安全性の確保は安全率ではなく基本設計、そしてその評価をリスクアセスメントで行います。危険な箇所は「ボルトを太くして安全率を高くしよう!」ではなく、場合によっては複数本に増やすなどのいわゆる冗長化が有効になります。
また機械全体を見て、あえて安全率を低く設定して非常時に壊れる場所を設定しておくことも安全性の確保に有効な場合もあります。ダメージトレランスと言います。
次回は安全率についてのまとめを行いたいと思います。
コメントをお書きください
元JAFDS F-4KAI,FSX 構造、コクピットアレンジャ (火曜日, 13 10月 2020 03:05)
「普通のボルトってなんやねん?」
何が言いたいの?
一般的に考えるのは生のボルト(廉価市販品)、焼きの入ったボルト、ステンレス等の硬直ボルト(航空機に使用)。
理論を並べても閲覧者には理解しにくいです。
結論として素材別、サイズ別せん断荷重スペック表が一番ほしいです。
管理者 (火曜日, 13 10月 2020 08:31)
JAFDS F-4KAI,FSX 構造様
コメントありがとうございます。
本記事はボルトを切り口に安全率についての私なりの考え方を書き記したものになります。本文導入部分で誤解を招くような表現があったかもしれず、お時間とらせてしまい申し訳ありません。
読んで役に立ったと思っていただけるような記事作成に努めていきますので今後ともよろしくお願いいたします。
まる (火曜日, 15 10月 2024 13:39)
一般的な締結トルクで締めるとその軸力だけで安全率1を少し超えるのですが、それを考慮すると通常よく使われる安全率5とか8とかに絶対届かないですよね?
そのあたりはどのように考えれば良いのでしょうか?